日本有數(shù)の溫泉地、大分県別府市。別府が観光地として賑わうようになったのは、別府港(當(dāng)時(shí)は楠港)が整備された明治初期まで遡り、溫泉地として大きく発展していったのは、意外にも明治後期からだといいます。『観光地 別府』が発展したのは、別府港開港から2年後の1873年(明治6年)に蒸気船が大阪?別府間を定期就航するようになったことが契機(jī)。その頃、別府の特産品として人気を博したのが、つげ細(xì)工です。港近くの商店街には、當(dāng)時(shí)、県下一のおしゃれの店と謳われた小間物屋があり、そこでは日本髪を結(jié)うためのつげ櫛も取り扱われ、多くのつげ細(xì)工職人がこの店で腕を磨きました。

この店で修業(yè)を積んだつげ細(xì)工職人のひとり、安藤一平氏が創(chuàng)業(yè)したのが『別府つげ工蕓』です。1919年(大正8年)に創(chuàng)業(yè)後、しばらくはつげ櫛やかんざしを中心に手がけていましたが、和裝から洋裝へ、さらには大量生産?大量消費(fèi)へと時(shí)代が移り変わると、ブローチや髪飾り、箸置きや菓子楊枝などの雑貨まで幅広く展開しました。年號(hào)は平成、そして令和となり再び、髪に特化したつげ製品づくりに原點(diǎn)回帰。つげ櫛の良さを現(xiàn)代的にアレンジした『つげブラシ』に的を絞り、製作を始めました。時(shí)代は変わっても『彫刻』や『透かし彫り』など、初代から受け継がれるつげ細(xì)工特有の技術(shù)を駆使。一本一本の質(zhì)にこだわる手仕事を続けています。

直徑約20cmの幹が育つまで40～50年かかるといわれるつげ。成長の遅さは、『木のダイヤモンド』と呼ばれるほど硬くて粘り強(qiáng)い木質(zhì)を育みます。繊細(xì)な加工をしても割れが少ないことから、昔から櫛だけでなく將棋の駒にも使われてきました。別府つげ工蕓では、國産つげの中でも最上種の鹿児島県産『さつまつげ』をブラシの歯に採用。髪にブラシを通すと、頭皮を優(yōu)しくマッサージしてくれるような心地よい感觸を味わえます。髪質(zhì)や髪量、使い心地に合わせて選べる3種類のブラシがありますが、歯の太さは一緒。歯の高さや向き、歯と歯の間隔が変わるだけで、髪どおりや頭皮の感觸も一変するから不思議です。

現(xiàn)代生まれのつげブラシにも、100年の技術(shù)と手仕事

別府つげ工蕓では、水が滴る生木のつげを皮剝きし、乾燥させるところから作業(yè)を開始。工房に在籍する6人の職人が丸太を板狀に、さらにヒゴ狀に細(xì)く裁斷して、最終的に磨きをかけて歯に仕立てていきます。柄の部分はリコーダーなどにも使われる南米産の木材、カステロを採用。裁斷、加工、形成と、機(jī)械を使って行われる作業(yè)を見ていると、どの工程も迷いのない動(dòng)きに見えますが、目で確認(rèn)できない木の中の狀態(tài)を手の感覚で探りながら行われるという、実に繊細(xì)な作業(yè)の連続です。

完成したブラシの歯。手が覚え込んだ感覚を頼りに、一定の丸み、太さ、長さの歯に削っていったもの

歯を差し込む工程に入ると、いよいよ終盤。色味を見ながら一本一本手で差し込み、萬力で圧著後、仕上げに熊本県玉名産の椿油に潛らせてやっと、一本のつげブラシが完成します。つげ櫛と同じく、つげブラシも一生ものです。経年変化も、つげ本來の色味や使う人の髪質(zhì)、使い方によって人それぞれ。歯が欠けても修理に出して新しい歯に入れ直せば、そこだけ若い色に。使うほどに『この世に一本だけ』のつげブラシとなり、愛著もひとしおです。現(xiàn)在、つげ細(xì)工を擔(dān)う工房はここ「別府つげ工蕓」を含め別府でわずか4軒。安藤家の家紋「下がり藤」と、つげの葉をアレンジしたロゴマークに、継承の心が刻まれます。