家康が整備し、サステナブルな発展を遂げた江戸時(shí)代
―― 門井さんはなぜ、江戸時(shí)代の初期を小説の題材に選ばれたのですか？
徳川家康は、所領(lǐng)であった駿河、遠(yuǎn)江、三河、甲斐、信濃との交換として豊臣秀吉に関東に行くように命令されたと僕は思っています。その際に國(guó)替えを受け入れ、當(dāng)時(shí)、関東の首都だった北條家の小田原ではなく江戸を選びました。
おそらく、小田原には地侍など既存勢(shì)力がいることによる既得権を嫌がったのではないかと思いますが、何もないに等しい江戸に一からまちをつくりあげると決めた時(shí)點(diǎn)で、自然との戦いを覚悟したはずです。そこで、江戸時(shí)代の初期に関わった人間と自然の戦いを描こうと思い、それにまつわる５つの物語を執(zhí)筆しました。
―― 第一話で家康が、利根川を曲げて江戸湊（現(xiàn)在の東京灣）から鹿島灘へ河口を変えたと書かれています。果たして、家康は江戸がどのくらい続くと考えていたと思いますか？
江戸時(shí)代は265年間もの間、続きましたが、家康はそれ以上に長(zhǎng)く続くと思っていたのではないかと思います。きっと、500年以上続くことを見越して都市計(jì)畫を行なったでしょうから。
江戸の町が水浸しにならないよう利根川を曲げると決め、事業(yè)に著手した時(shí)點(diǎn)で家康は50代前後。當(dāng)時(shí)では壽命も近い年頃です。そんな事業(yè)は、自分の目が黒いうちに終わるなんて思うわけはありません。川を曲げるということは、新しい堤防を造らなくてはいけません。おそらく、相當(dāng)な長(zhǎng)いスパンでまちづくりを考えていたはずです。
當(dāng)時(shí)江戸湊に注いでいた利根川を渡良瀬川へと合流させる工事を行い、鹿島灘へ注ぐ流れに変更した。事業(yè)が完成するまで、家康が任命した土木官僚、伊奈家は3代に渡り関わった。
―― 家康以前の江戸は、どんな場(chǎng)所だったとお考えですか？
江戸湊は、貿(mào)易港の堺を有する大阪灣と違い、遠(yuǎn)淺で船がどこまで接岸できるかもわからないような場(chǎng)所だったと思います。家康が江戸を開拓する17世紀(jì)になるまで、ずっと手付かずだったということは、日本人の土木技術(shù)が成熟していないと開発できないような大きくて広くて厄介な土地だったわけです。
―― ということは、江戸を開拓する際に土木技術(shù)を成熟させていったということでしょうか？
いや、僕のイメージでは、むしろ成熟した技術(shù)の出口だったのではないかと。なぜなら、戦國(guó)時(shí)代のわずか５０?６０年の間に日本の土木技術(shù)は飛躍的に向上しているんです。大きな理由として、その頃、戦に出かける兵に食べさせるお米が必要でした。お米を作るには田んぼが要ります。そのためには、水路のコントロールが必要です。
周囲を洪水にしないように配慮しながら、米作りに必要な水だけを常に確保しなければいけないということが切実でした。だから、各藩において治水の技術(shù)はとても発達(dá)しました。
特に、甲斐（山梨）の武田信玄は、優(yōu)れた治水技術(shù)を持っていました。盆地である甲斐に注ぐ川は３方とも急流ぞろいですが、それを乗り越えて穀倉(cāng)地帯を築いています。
僕が『家康、江戸を建てる』の第一話に書いた「流れを変える」で登場(chǎng)した家康の土木官僚、伊奈忠次は、三河生まれですが一向一揆が起きたときに父親が家康に刃向かったので、親子共々領(lǐng)外に追放され、甲斐にいました。のちのち家康がふたたび彼を家臣にしたのは、甲斐で學(xué)んだ治水技術(shù)への期待があったのかもしれません。
インフラ整備により江戸に多くの人が集まった
―― 江戸が265年間長(zhǎng)く繁栄した理由は、どこにあるとお考えですか？
こちらは、第三話「飲み水を引く」でとりあげた神田上水の話がいい例かもしれません。井の頭（東京都三鷹市と武蔵野市にまたがる地域）から飲み水を引いてくることは、技術(shù)的には利根川を曲げることよりはたいしたことはなかったと思います。
ですが、上水道を通すと同時(shí)に人のシステムを整理したことが功を奏したのではないかと。井戸の使用料（水銀）を大家さんに払うといった今でいう水道料金システムを構(gòu)築して、上水の維持管理費(fèi)として使えるようにしましたね。江戸では、そういった仕組みづくりが上手になされていました。
―― まちがサステナブルに長(zhǎng)く続くために、水道は重要な役割を果たしていたということでしょうか？
都市が成立するには、人が集まらないといけません。そうなると、地方の人が都會(huì)のことをさして知らなくても、そこに行けばそのままそこに住めるというシステムがあらかじめ土地に備わっている必要があります。まさに水道がそうです。そこに住んでお金さえ払えば、きれいな水が飲めることが重要です。
仮に、水道がなかったとしたらどうなるでしょう？どこの山に水が湧いているかと人に聞き、そこまでわざわざ水を汲みにいかなければいけない。水を飲むだけでこの労力です。そんなことは機(jī)能的に片付けてしまったところに人間は集まってきやすいですね。
―― それは、現(xiàn)代に続くシステムですね。そのほかに當(dāng)時(shí)のものは殘っていますか？
江戸時(shí)代の上水道のことを調(diào)べていると、現(xiàn)代の水道とそう変わっていないように思えました。水は、地下に埋めたほうがきれいなわけですから、そういう発想自體は今も変わらないですよね。水道は、地下に埋めて暗渠[あんきょ]にしていますが、當(dāng)時(shí)は蓋のない開渠[かいきょ]の部分もところどころにありました。
また幕府は、265年の間に上水にはゴミを入れるな、汚物を入れるなと何度もおふれを出しています。中には、身投げをするなというおふれも繰り返し出されています。衛(wèi)生的にも、穢れ[けがれ]の意識(shí)的にも問題がありますし、困りますよね。身投げをしたらその村全員の罰則となっていたようです。
暗渠（水道管の地下埋設(shè)）システム。松や檜など、硬くて腐りにくい木の板が選ばれている。
―― 家康の先見性と一大インフラ整備プロジェクトによって低濕地であった江戸に多くの人が住めるようになりました。後編では、家康から家光へと受け継がれ、江戸時(shí)代が265年も平和に続いたシステムづくりについて伺います。
文/朝比奈千鶴 イラスト/平野秀明
